風薫る

だからきっと、迷惑をかけているのは私の方で、軽蔑されるのも私の方。


黒瀬君が嫌なら、すぐにでも離れる。


「俺が誘ったから」


黒瀬君は、やっぱり優しい。ぶんぶん首を振る。


「嫌だったら断るよ。私が図書館で待ってたのはただの勝手で、黒瀬君と会いたいって思ったからだよ」

「木戸さ」

「迷惑なら言うよ。……困ってたら、相談するよ」


黒瀬君は来なくてもよかった。わざわざ来るべきじゃなかった。

安寧のために、私なんか放り出して決別して、無関係を装ってくれても、よかった。


くろせくん。黒瀬君。


それでも来てくれた。走って、来てくれた。


ねえ、黒瀬君。

黒瀬君が来てくれたのが嬉しいんだって、舞い上がっちゃったんだって、はやる鼓動を伝えられたら、どんなに幸せだっただろう。


「黒瀬君、明日も来てほしい。ここも駄目になっちゃったら、遠出して書店巡りしよう」


ごめんね、ずるいね。ひどいこと、言ってるね。


でも、でも。


……一緒にいる場所を、隣にいる未来を、望んでも、いいかな。


「黒瀬君となら、楽しいから。だから」


私ね。ずっとね。黒瀬君が、好きなんだ。


「黒瀬君の放課後を、休日を、私にください」


嫌なら断ってくれていいから。遠慮なんていらない、無下にしていいから。


ぎゅっと唇を噛んで返答を待つ。


……嘘。嫌なら断ってくれていいなんて嘘。


夢を見たいよ。もっと一緒にいたいよ。本当は、断らないで、欲しいよ。


「…………木戸さん」


黒瀬君は、ひどく掠れた声で、私を呼んだ。