風薫る

黒瀬君は何も言わないけれど、今一番有効で手っ取り早い対処法はそれだと思う。


偽でいいから、彼女を作ってしまえばいい。


罵詈雑言の嵐、はたまた手が出るだろうけれど、気にしない神経の図太さは持ち合わせている。


条件も、本好きということで、この学校にはなかなかいない共通項を持っている。


背が小さいのだって私ほど小さい人はいないから、黒瀬君にとって不本意で不名誉な話だろうけれど、平均より小さい人がいい、とでも認識されれば声をかけてくる人は絞られる。


完全な防波堤になるのに足りうる容姿は持ち合わせていないけれど、その他の条件なら、それなりに何とか埋め合わせできそうなものを、一応、携えているつもり。


私は黒瀬君が困っているのを知っている。

本が好きで、気遣いしてばかりで、穏やかに笑うのを知っている。


自惚れるつもりはないんだ。


でも、今一番、黒瀬君に微笑まれて優しくされて絶対に勘違いをしない女子、という、黒瀬君にとって使いやすい位置にいると、思う。


実は今までにも、勝手に考えたことはあった。


かなり私的なことだし、首を突っ込まれたくないんだろうし、私から言い出すのもどうかなあとはばかられて、提案してこなかっただけ。


黒瀬君が恋愛ごとの煩わしさに困っているのは知っていたけれど、そんなに大事にはなっていなかったし、黒瀬君もあまり大事にしたくないようだったし、一人で綺麗にさばいているところに無理に横やりを入れるわけにはいかないし、何より私は私で、そこまで虫除けになるほどいい物件ではないから、瑞穂にせっつかれるのをまるっと流してきた。


でも今は、猫の手でも借りたいはずで。虫除けがいたらきっと、楽になれるはずで。


ねえ、黒瀬君。私にできるのは手を貸すことくらいだけれど。


黒瀬君が望むなら、この手を貸すのに躊躇いはないんだよ。

言ってくれたら、いつだって、喜んで貸すよ。


だから、お願いだから。私を。