風薫る

まち、間違った……! 何を言ってるの私、忘れて、忘れてください黒瀬君……!


ぱくぱく口を開け閉めする私に、瞠目していた瞳をゆっくりすがめて、黒瀬君がいたずらっぽく笑った。


「三回でいいの?」

「えっ、もっと言ってくれるの?」

「え、言っちゃ駄目なの?」


素でびっくりしたら黒瀬君に素でびっくりされて、もっとびっくりした。


全然駄目じゃないです。嬉しいです。


ひとつお願いを思いついて、振り払って、……やっぱり気になって、おそるおそる口に出してみる。


「じゃあ、あのね、あの、明日会ったとき髪下ろしてたら褒めてくれる……?」

「いいよ」

「えっいいのありがとう……! じゃあ、明日は絶対下ろすね」

「うん。待ってる」


ああ、やっぱり、黒瀬君は優しくていい人だ。私が頼んだから成り行きで、とはいえ、今から楽しみで仕方ない。


えへへ、どうしよう、黒瀬君が褒めてくれるんだ、どうしよう嬉しすぎて変な顔になる……!


緩む頬を両手で押さえる。顔を隠すためにしたのだけれど、そうしたら余計に目立つのだということをすっかり失念していた。


「…………可愛いとか似合うとか、褒められたら、やっぱり嬉しい?」