風薫る

違ったら怖くてこちらからは振り向けなかった。ごめんね。


それから、黒瀬君に会うときに髪を結んでいないのは初なので、ちょっと気にしている。


「へ、変かな」


優しい黒瀬君のこと、聞いたら褒めてくれるに違いないのだから、黒瀬君に聞くのはずるいんだけれど、瑞穂の意見だけだと物足りない。

お母さんだともっと甘甘だから、もっと不安。


おそるおそる聞く。いや、と否定して、黒瀬君はやっぱり褒めてくれた。


「下ろしてるのも可愛いよ」

「本当? じゃあ今度から黒瀬君に会うときはできるだけ下ろすね」

「え」


嬉しくなって阿呆な発言を口走ると、黒瀬君も阿呆だと思ったのか、固まってしまった。


はっとしたものの、もう遅い。真っ赤になりながら、とにかく沈黙を避けたくて口を動かし、


「えっと、もしかしてお世辞だった? というかあの、もしかしなくてもお世辞だった、よね」


そしてやっぱり、相変わらず阿呆なことを言ってしまって、余計に慌てる。


ど、どうしよう、とにかく弁明だ、釈明だ、そう、とにかく説明して何とか上方修正を……!


「ごめん、あんまり下ろしてるの褒められたことないから嬉しくなっちゃって、……結ぶね、わた」


必死な私の髪ゴムを持つ手を、大きな手が止める。


黒瀬君が優しく微笑んで、涙目な私を覗き込んだ。


「可愛いよ。下ろしてるの可愛い」