風薫る

叫びたかった。悲しかった。私の、私たちの宝物を誰一人として大切に扱ってくれる人がいないことに強い怒りを覚えていた。


本が好きではない人がいるのは分かっている。

本に興味がないから怒っているんじゃあ、ないのだ。


読書をしない人がいるのは仕方がない。そう、仕方がない。けれど。


図書室という、蔵書を保管するための、貸し出すための、本好きにとって最も愛しい施設に今立っているのに、目的を違えているから怒っているのだ。


勉強でもなんでもいい、待ち合わせだっていい、暇つぶしでも構わない、けれどせめて、つまらなそうに大きな声でおしゃべりをするのはやめて欲しかった。

マナーを守って欲しかった。

図書室の意味を、潰さないで欲しかった。


唇を噛み締めて、急いで足を翻す。


駄目だ、あそこにいてはいけない。黒瀬君を巻き込んではいけない。


私たちの宝物について話そうとしているのに、あんな、あんな宝物を冒涜するような空間にいてはいけない。


悲しみと恐ろしさと、いろいろに混ざり合う感情に引きずられて、足早に階段を駆け上がった。