風薫る

黒瀬君の隣を歩きながら、溢れる花に目移りする。

鮮やかな色が視界を埋める。


いつも通らない道沿いの景色は、同じところでも、少しかげるだけで目新しく映った。


塀を伝う、青々としたつるとか、梅雨色のグラデーションの花弁とか、細い堀に今だ形を残す病葉(わくらば)とか、桜降る抜けるような青空とか。


まるで私みたいに妙に浮かれた蝶々が、ふわふわ進路を気の向くままに変えている。


「あったかいね」


黒瀬君が眩しげに目をすがめた。


「ね」


春という四季の中で最も優しい季節は、穏やかさが黒瀬君に似ている。


のっていた地図を参考にゆっくり歩くと、カフェが見えてきた。


自動ドアをくぐって、一旦顔を見合わせて、申し合わせたかのように二人で同時に入口付近の席を取る。


ここしか考えられなかった。当然のように足がそちらを向いた。


黒瀬君もきっとこの席を選んでくれると思ったのは、きちんと正しかったらしい。


「だって、ねえ」

「一番よく見えるもんね」


楽しそうな呼びかけににこにこ頷く。


何が見えるって、もちろん図書館。


一番視界が開けている席だから、大規模な建物の、図書館があるとおぼしき場所が、木々に遮られてしまわずにはっきり見えるんだ。


お知らせの紙面にのっていた見取り図の記憶が合っていればの話だけれど、多分正解。


ここからでもちゃんと本棚が見えるもの。


思わず緩んだ頬に黒瀬君も破顔した。