風薫る

「え、でも、いつも隣にいるでしょ?」


帰りとか、図書室とか、と例示しつつ指を折る黒瀬君。


「そうだけれど、自然な流れでそうなってるというか……!」


隣来て、なんて言われて隣に並んでいるわけではないし、隣にいることを意識しているわけでもないし。


改めて告げられると、とても羞恥心を煽った。


だってそうでしょう、隣来てって言われて隣に並んだらなんかあれじゃないか。


示唆する意味は、きっと。


照れて瞬きを繰り返している私の、俯きがちに伏せた目を覗き込んで、優しくそっと見上げた黒瀬君。


目が合って思わず視線を外すと、ちょうど私の爪先に揃えて置かれた大きな靴を見つけた。


靴先から順になぞっていくと、たどり着いた場所に、穏やかな笑顔があって。


急に合った視線と映り込む自分の姿に黒瀬君との距離を知って、あまりの近さに息を潜める。

目を逸らせない。


私を大きく切り取ったその黒は、蛍光灯の光を端に乱反射しながら、澄んだ陰に密かに不安を宿しているような気がした。