風薫る

あれ、でも待って、と黒瀬君が首を傾げた。


「水筒忘れたらどうするの?」

「ペットボトルを買って開けてもらうとか、どうしようもないときは飲まないとか……」

「え!?」


黒瀬君が目をまん丸にした。


だって開かないんだから仕方ない。


お店に入れば大抵大丈夫だけれど、他にはもう手段が閉ざされるのだ。


そんなに毎回お店に入るわけにはいかないので、毎朝入念にチェックすることにしている。


でも結構ふと忘れるんだよね、と少し悲しくなっていると、黒瀬君が私を呼んだ。


「木戸さん」


真剣味を増した瞳がこちらを見据える。


気のせいか、一つ下がった音階に肩が跳ねて、私は慎重に返事をした。


「は、はい」

「俺といるときはペットボトルでも缶でも何でも次から絶対俺開けるから、飲んでね水筒なくても」


飲まないのはよくないよ、脱水症状になっちゃうでしょ、なんてお母さんみたいな台詞を宣う黒瀬君。


「たまに水筒も開かないけれど……」

「水筒も開けるから」


即答。即答だ。

迫力に押されてひたすら頷く。


「遠慮しちゃ駄目だからね」

「うん、……っ」


掬われた右手に瞠目している間に、若干強引に指切りをされた。


約束だから、とか言われたけれど、ええっと。約束はする。するけれど。

分かったような分からないような……。


流れ作業についていけていない私に怖い顔をして言い含めると、ふと我に返ったかのように呟いた。


「何してんの、俺は……」


手が離れる。