風薫る

「それで、ですね」

「うん」

「会えて嬉しい……です」


語尾に久しぶりに、です、がついたのは、きっと。


微妙に伏し目がちなことと、律するようにきつく結んで固められた唇を鑑みるに、照れ隠しだろう。


私まで照れくさいのは、黒瀬君の赤が伝染したからに違いない。


そう。

きっと、絶対、そう。


うん、と先ほどと同じように頷いたはずなのに、揺れて掠れて、なぜか小声になった。


一拍遅れて照れ臭さがやってくる。


ううう、駄目だよ照れ臭いよ! 照れるよ……!


多分今、自分の変化に一番ついていけていないのは私。


私が私のままではいられないだなんて何としても知られたくなくて、必死に冷静になろうと足掻いた。


内心わたわたしている私に、黒瀬君は今だ赤い耳で続ける。


「テストは俺も頑張った」

「……うん」


ぎゅっと手を握る。


勝手に膨らんでにじみそうになるいろいろを順に削ぎ落としていった、限りなく抑揚を抑えた返答は、無事何とか形になった。


うん。

うん。そうだね。


知っている。


黒瀬君は頑張る人だから。


思っていた。


黒瀬君は頑張るだろうと。それなら私も頑張ろうと。


知らないだろうし、言っていないし、伝わらなくていいけれど。


私は、終わった後会ったときに、黒瀬君に恥じない私でありたかった。