風薫る

顔を上げた木戸さんの頬を、俺の人差し指が押して。


覗き込んで悪戯の成功に笑うと、唇を尖らせられた。


「……黒瀬君」


押されたまま、むぐむぐ、とこもる抗議の声。


素直に指を外すと、まだ近くにいたから届いたのだろう、腕を伸ばした木戸さんが、同様に俺の頬をつついた。


「もう。何してるの黒瀬君」


ずびし、と荒くつつく指先はそのままに、怒ったような、はたまた困ったような、定まらない表情をこちらに向ける。


「うーん、ちょっとした悪戯を」


俺がしたのはよくあるアレだ。肩を叩かれて振り返ると指があって、頰に当たるアレ。


笑って首を傾げてみせると、ほんの少しだけ指に込める力を強められた。


べしべしべし、と遠慮なく突き出される指の腹。案外攻撃力が高い。


「ごめん木戸さん」


べしべし。止まない無言の主張。


うわあまずい、木戸さんがお怒りだ……!


「ごめん。もうしない」

「…………」


びしびし刺さる攻撃がやまなくて謝れないので、ちょっとごめんね、と木戸さんの指を手のひらで押さえ込んで一旦頰から外して、頭を下げる。


「ごめん。ふざけすぎた。俺が悪かった。ごめんね」


うっ、と喉を詰まらせた木戸さんが、どこにしぼみかけた怒りを向けたらいいのか分からないみたいに視線をさ迷わせた。


でもやっぱり、まだ唇が尖ったままだ。