だから。


やっぱり私は答えに窮して、口ごもって口を閉ざす。


……あんなのは反則もいいところだ。

黒瀬君の笑顔は心臓に悪すぎる。


とっさに縮む首と、小さく跳ねた肩と染まる頬と、うるさく高鳴る心臓。


毎度毎度緊張してしまって固まって、黒瀬君が苦笑して。


優しくされてまた固まって、無限ループに入る。


図書室で、廊下で、正面玄関で、家路で、

話していたり話していなかったり、

目が合ったとき、追いかけていた視線が捕まったとき、

必ず黒瀬君は柔らかな微笑みを落とす。


目が合う度に、私は。


知っている。世間ではこれをなんて言うのか。


知っている。この気持ちがなんなのか。


知っている。

黒瀬君のことばかり考えている癖に臆病な私を、何も言わずに黒瀬君が待ってくれていることなんか。


知って、いる。