大会の朝、集合時間よりもかなり早く家を出て、虫取りをした神社に向かった。

お参りをしてから行こうと思ったから。


自転車を止め、朝靄のなか、草の匂いのする石段を早足で上っていく。

お祭りの提灯が取り付けられていて、夜に向けての準備が着々と進んでいるようだった。


私の足音で驚いたセミが、ジジジと鳴いて飛んでいく。

あ、あの木には2匹止まってる。

虫取りした日から、私はすぐにセミを見つけられるようになっていた。

それまでは、虫と木の幹の区別すら、全くできなかったのに。


不思議だ。

興味を持った瞬間から、見える世界が全く違ったものになるんだもん。


それは、虫屋も同じで。

興味を持った瞬間から、虫屋のことが色鮮やかに見えるようになった。

カバーがかかったお祭りの露店が立ち並ぶ参道を走り抜け、お賽銭箱の前で立ち止まる。

100円玉をポンと投げ入れ、目をつぶって手を合わせた。


「バッタみたいに跳べますように」

そのときふわりと風が吹き、微かにミカンの匂いがするのを感じて目を開けた。


「そしたら、ビルの9階ぐらいまで跳んじゃうかもしれませんよ」

……えっ?

振り返ると、ミカンの枝を持った虫屋が立っている。