その言葉通り。


椿は高学年になるに連れて、お父さんと黒崎さんと正装してどこかへ出ていくことが多くなった。


海外へ行く時は当然ながら学校も欠席。



「これから会食にいって、そのあと親族会議があるんだ」


「……会議?」


「私立の中等部に入るように言われてて、その話し合いも兼ねてるみたい」



難しいことを口にする椿はちっとも笑っていなくて、私はこのまま椿から笑顔が消えちゃわないか怖くなって、心配だった。



「椿は……たまに苦しそうな顔してる……悲しいこと、あるの?」


「ううん。悲しくはない。ただこの家にいると息が詰まる。どんどん自分の気持ちが……埋もれていって……苦しくなる」


悔しそうに、でもどこか悲しげな顔をする椿の手を私は無意識に握りしめていた。


「明里?」


「椿が苦しい時は、私と半分こしよ?」


「半分こ?」


「うん。お母さんがよく言ってたの。私が悲しい時はお母さんも悲しくて、嬉しい時はもっと嬉しくなるんだよって。だから私も一緒に持つ。椿がひとりで持てない重いものは、私も半分持つよ!」



椿は綺麗な瞳を大きく開いて、しばらく私を見つめたあと、微かに笑顔をこぼした。


「重い物をレディに持たせてはいけないって、黒崎が言ってた。だから、明里には持たせないよ」


「平気だよ!お母さんのお手伝いしてるんだから!」



それからしばらくして、中学は有名な私立学園へと進学することが決定した、と報告された時は、どうしようもなく寂しくなった。