「俺が明里と同じ世界にいたいから、ダメなことなんか何ひとつないんだよ」



優しく諭すようにみんなに言うと、椿はこちらへ振り返って微笑んだ。


まるで空に溶ける雲のように柔らかく。



「……ありがとう、椿」


「それは俺のセリフ。みんなが離れたとこから俺を見てるのに、明里はいつも俺の隣にいてくれるんだよ」


「椿……」


「こんな気持ち初めてだ。明里の隣は温かくて優しいね」



優しいね、と言った椿の顔はとても穏やかで。


目が合うと、白い歯を見せて笑顔を浮かべた椿にドキドキした。



椿のくれる笑顔はまるで魔法みたい。



目の前が暗くなりかけても、こうして椿が隣で笑ってくれると、明るくなっていくんだ。



……けれど、



「なにをしている。今日は株主の方々への挨拶へ出向くと言ってあっただろう。さっさと支度を済ませなさい」


「はい……」


「キミもいい加減ここへ出入りするのはやめなさい。お遊びはもう終わりだ」