「明里、どうして泣いてるの?」


「……昨日ね、自転車でまた転んじゃったの……なかなか一人で乗れないんだ」



椿はそっと私の頭をなでてくれた。



「大丈夫?俺、乗馬なら教えてあげるよ」



きっと椿なりに気を遣ってくれたんだと思う。



「ありがとう椿……。でも馬は乗ったことないの。それに自転車はひとりで乗れるようになりたいんだ!」


「本当に明里はすごいね。どんなことも自分ひとりで決めて、なんでも諦めないんだから。カッコいいな。俺とは違う」



お父さんや黒崎さんと一緒にお城の外へと出ていく時の椿だって、大人っぽくてカッコいい。



「そうしなくちゃいけないことがこの星ノ宮の家に生まれた時から決まってるだけなんだよ。カッコよくなんか、ない……」



カッコいいって思ったのは本当だった。


けど、私がそう言ったら10歳の頃の椿はちっとも嬉しくなさそうに答えていた。