「明里とおもてなし会で会ったことを話してくれてね。それで、わざわざ足を運んでくださったんだ」
お父さんは満面の笑みだ。
あの後、お客さんとして早速来てくれたんだ。
「お豆腐を頂いたのだけど、とっても優しい味で、なんだか懐かしさを感じたわ」
「お姉ちゃんのクッキーも、ここのお豆腐も美味しかったよ!」
ジンっと胸が熱くなる。
お父さんとお母さんの味を知ってもらえたことも、美味しいって言ってもらえたことも。
だけど、このお店は───
「本当にありがとうございます!宮城食品で扱ってくださるなんて、夢のようです!」
お父さんの弾んだ声が響いた。
宮城……食品……?
「え?扱ってくれるって、あの……どういうこと?」
「この方は、東京に本社を持つ、あの宮城食品の会長さんなのよ」
「会長、さん?」
おばあさんが……?
宮城食品なら聞いたことがある。
あのCMでもやってる有名な……。
やばい……頭が混乱してる。
「ご挨拶が遅れてごめんなさいね」
一気に緊張が増してぶんぶんと頭を振った。
「こ、こちこそ!おもてなし会では、たいしたおもてなしも出来ず……!」
「ふふ。あなたくらいよ。こんな年寄りの質問に丁寧に答えてくれたのは。これからどうぞよろしくね、明里さん」
待って……。
これは、夢……?
お店を救ってくれる救世主が本当に現れるなんて。
差し出されたシワだらけの手を握り返すと、とても温かくて。
その優しい手の温もりに、今度こそ涙がこぼれ落ちた。
「……も、もう、お店、潰れないの……っ?」
「こ、こら明里!お客様の前でやめなさい!すみませんね、本当にお恥ずかしいところをお見せして」
安堵する私をペシペシ叩きながら赤面するお母さん。
ニコニコと柔らかく微笑む宮城さんに、私は何度も頭を下げてお礼を言った。
私はまだまだ子供で、ローズクイーンにもなれなかったけど。
お父さんとお母さんの大切なお店のために、少しでも力になれたのかな。
こんな私でも、出来ることはあったんだね。
青薔薇に来て悪いことばかりじゃない。
大変だったし、苦しい時もあった。
でも、こんなに嬉しいこともあるのだと、心底思ったのだった。