「俺の感情だけで突っ走って、王子との婚約ぶっ潰せっての?悪役にも程がある」
「悪役だろうとなんだろうといいじゃない!」
真剣な顔つきで火神さんが戸澤くんに詰め寄る。
「悪役が王子から姫を奪うって?どんな夢物語だよ」
「今のあんた、カッコ悪いよ。自分の家とか立場とか身分とか言い訳にしてるだけじゃん。わたしだったら絶対後悔するってわかってるなら、留まらないけどね」
怖くても、火神さんは私に全てを打ち明けてくれたよね。
いつだって真っ直ぐな火神さんの気持ちが伝わってくる。
「もう、遅いんだよ……」
「だったら、たったひとりのために弾いてるこの曲、もう弾く必要ないでしょ」
蒼ノ月様を引っぱたいた譜面をパサッと戸澤くんに投げつけた。
「っ、」
ヒラヒラと宙を舞って落ちていく譜面を、戸澤くんはすぐさま無言で拾い上げた。
「明里、あんたもだ。それでいいの?このまま、大切な人の幸せを願って身を引くってわけ?」
案の定、火神さんは同じように私に言葉を浴びせた。
真っ直ぐな火神さんの眼差しが痛い。
「自分の気持ちに素直になんなよ」
結局、私と戸澤くんはなにも言えず目を伏せるだけしか出来ないままだった。