戸澤くんの気持ちは痛いほどわかる。
そばにいたい、ただそれだけなのに。
住む世界が、あまりにも違うから……。
私はふとそう思った。
「……後悔、してんだ。これでも」
宙を仰ぐように戸澤くんが上を向いた。
「なんで俺、あの時……もう二度とピアノが弾けなくたっていいから、お前といたいって言えなかったんだろうな……」
後悔したくないって、以前私に言っていたことを思い出す。
「いきなり声かけられて、正直ビビったけど」
戸澤くんは知らないんだろう。
この音楽室の前に、いつも撫子様がいたことを。
「……私、何度も見たよ。戸澤くんがここでピアノ弾いてる時に、撫子様が廊下にいるの」
「……は?」
戸澤くんは信じられないといった表情をする。
「戸澤くんに気づかれないようにしてたのかな……撫子様、いつも戸澤くんのピアノ聞きにきてたんだと思う……」
誰にも見つからないように、ひっそりと。
声もかけずに、ただピアノの音を聞いていたと思う。



