「あ、前に話したろ?その先生ってのが星ノ宮の母親で。俺みたいな庶民が混ざっても嫌な顔ひとつしないで、一緒に教えてくれた優しい人だったよ」



椿と同じ瞳の色をした優しい人。


何度も会ったり会話をしたことはなかったけれど、椿のお母さんは誰にでも平等だったなと思う。



「俺がピアノ弾いてると、なこちゃんがいっつも嬉しそーで。俺、好きだった。なこの、あの顔……」



“なこ”と呼んだ嬉しそうな戸澤くんを見ていたら、なぜだかこちらまで切なくなった。



「けど、俺が中学ん時に親父の会社が倒産した。結構ヤバくて……借金取りだなんだって、輩が家に押しかけてきたりで。あー、これは進学諦めて働くしかねーって思ったね」


「あんた苦労したんだね」


「いーや?俺じゃなくて、親父が大変そうだった。あ……でも、その状況を知ったなこちゃんの親父は、もちろん黙ってるわけもなくてさ」



なんと撫子様のお父さんが、戸澤くんの家にやってきたのだと言った。