微笑んでみせる横顔が強がっているように映る。
戸澤くんはそれ以上なにも言わなかった。
「よかった。また会えて……」
撫子様はこうやって、戸澤くんに声をかけるチャンスを伺っていたのかな。
ピシャリと扉が閉まり、音楽室を出ていった撫子様。
「やっぱりそういうこと?」
沈黙を破るように、最初に口を開いたのは火神さんだった。
「そういうこと、とはなにかね火神くん!」
「だーかーらー!戸澤と撫子様って知り合いなんじゃないの?」
火神さんの問いかけに蒼ノ月様は「なんだって!?」と動揺している。
私も火神さんと同じことを思っていた。
「さすが火神。勘が鋭いな?」
「だってさ?ふたりを見てたら気づくよ。特に撫子様なんか、明里に物申しに来た時、あんたのこと見てたからね?」
あ……。
思い返せば、撫子様がクラスへとやってきた時、戸澤くんもすごく驚いていた。
「知り合いっつーか、幼なじみなんだ」
「幼なじみ……?」
思わず聞き返してしまったのは、私と椿と同じ関係性だからだろうか。
知り合いよりも友達よりも、もっと深い仲。
「幼なじみ“だった”って言った方が正しいかもな」
戸澤くんは力なく笑った。



