「いーや?んなこと気にするな。榎並の顔見りゃわかるよ。星ノ宮のこと、ただの幼なじみって思ってないんだって」



戸澤くんにお見通しされている私は正直に答える。



「……ん。椿の婚約がホントなら、やっぱりショックだって思ってる自分がいる」



こんなことを言うのは間違っているかもしれない。


だけど自分の気持ちはもう誤魔化せない。



「明里、あんたは星ノ宮が好きなんでしょ?」



核心をついた火神さんの力強い瞳に、私は頷いた。



「好き、椿が……」



言葉にすると、胸がキュッと音をたてる。


同時に、どれだけ想ってもラスボスの言う通り、叶わないのだと現実を突きつけられた気がした。



「婚約か……めでたい話だってのに、素直に祝福出来ねぇ俺は器が小さいのか」



戸澤くん……?


ピアノの椅子に腰かけたまま、まるで独り言のように落とされた戸澤くんの声がやけに悲しく聞こえた。