「わたくしはこの星ノ宮家に仕えたばかりの頃、旦那様から出来が悪い側近など要らぬ、出ていけと言われたことがあります」


「ラスボスなら言いそうですね……」



鬼の形相をしたラスボスが想像つく。



「しかし、椿様が言ってくださったのです」



────“黒崎を追い出すことは僕が許さない。今度は僕が黒崎を守る”……と。



黒崎さんは懐かしむように目を細めて教えてくれた。



「まだ小さな椿様が、震えながらに旦那様の前でわたくしの手を握ってくださったこと、忘れた日は一度たりともありません」



それを聞いて私は思い出したことがある。


黒崎さんは前に、椿のためなら地獄にだって喜んで飛び込むとまで言っていた。



なんて忠実な側近なのだろうと思っていたけど、黒崎さんは椿のことをとても大切に思っているのが伝わってきた。



「私も、椿の笑顔が大好きです……」



子供の頃からあまり笑った顔を見せることは多くはなかった。



けれど、内側から輝いていく表情が、椿の笑顔が、見ているわたしまで笑顔にしてくれた。