「当主になるために生まれてきたと仰っていた椿様は、いつも陰を落とした表情をしていらっしゃったのです……本当の気持ちにだって、蓋をしてきたようにわたくしには見えました」
椿は言っていたよね。
当主になることは、望んでいなくても、生まれた時から決まってるんだって、いつも寂しそうだった。
「ですが、明里様と出会ってからの椿様は少しずつ笑うことが増えていったのです。まるで宝物を見つけたようにキラキラした瞳をしています。椿様の笑顔を、旦那様が最後に見たのはいつですか?」
ラスボスは口を閉ざしたまま、目を見張って黒崎さんを見つめていた。
「もう少し、おふたりを見守ってあげてはいかがでしょうか?わたくしや旦那様が思っている以上に、おふたりは成長しています」
黒崎さんはぽっと明かりが灯ったような穏やかな笑みで私に微笑んだ。



