「……聞こえましたが、なんのことを話してるかはわかりませんでした!」



あれだけじゃわからなかったのは事実。



「別に俺は明里に聞かれて困ることなんかないよ」



肩をすぼめる私に椿は淡い笑みを見せる。



「椿様……っ!先程の件はまだ口外禁止なんですからね。例え榎並さんが幼なじみとはいえ、お父様からもわたしと椿様の───」


「なにそれ?明里のレシピ?」



撫子様が話しているのなんか聞いちゃいないとばかりに、私の手からヒョイッと用紙を奪った。


撫子様の背後から黒いオーラが立ち込めている……。



「そ、それはまだローランド先生に見せてないレシピで……」


「なんで見せないの?」


「まだ、迷ってて……」


「ふーん。俺は好きだよ?明里らしくて」


「……っ、」



不意に向けられた椿の瞳に、今度は違った意味で鼓動が暴れ出す。