「……バカね。いくら思い馳(は)せても、残念ながらその願いが叶うことはないのよ」
目線を落とす撫子様。
どうしてか、その言い方は私だけに向けられたようには聞こえなかった。
「……なぜ、撫子様はそう思うんですか?」
撫子様は小さく溜め息をついた。
「住んでる世界が違う者同士に、奇跡なんて起きるわけないでしょう?」
ふいに低くなった声。
なにもかも見透かしたように吐き捨てると、撫子様は振り返ることもなく今度こそ私の前から立ち去った。
────奇跡は、起きない。
その言葉がぐるぐる頭の中を渦巻いている。
戸澤くんが奏でるピアノの音が、動けずにいる私に、やけに悲しく響いて聞こえた。