「……あっ、戸澤くんは、Cクラスですがちゃんと許可を得ている証明を持っていましてですね……っ」
私が言い終わらないうちに撫子様はふんっと顔を背けた。
そして踵を返し立ち去ろうとした撫子様。
「あの……ぴ、ピアノ、聴いていかないのですか……?」
「っ、」
背中に投げかけるとピタリと動きを止めた。
撫子様はきっと戸澤くんのピアノを聴きたかったからここにいたんじゃないかな……。
ただピアノが好きなのか、戸澤くんの音色に惹かれたのか。
その真意はわからないけれど、さっき見た撫子様の横顔が私にそう思わせた。
「とても素敵な曲ですよね。音楽のことはあまりわかりませんが……戸澤くんはずっとこの曲だけを弾いてて」
「……あなたも聴いていたの?」
「は、はい!数えるくらいしか聴いたことはないし、曲名も知ら───」
「ずいぶん余裕があるのね?」
突然、キンっと空気が冷たくなった。



