「そうじゃない。だいたい明里は少しもわかってないよね」
「蒼ノ月様のこと?」
私が名前をあげると椿の顔が不機嫌そうに変わった気がした。
「押し倒していいのは、近い将来嫁にもらう俺だけってこと」
椿のそのセリフは私の心拍数を今日一番と言ってもおかしくはないくらい上昇させる。
暗いとはいえ、今の私の顔を見られたくなくて手の甲で隠す。
「それは、椿の方でしょ……っ」
「俺が?」
それにいつもの私なら、なにまたバカなこと言ってるのって反論するところ。
……だけど、
「そ、そうだよ……っ。わかってないよ。今みたいに、ドキドキして変になりそうとか……椿の顔が……恥ずかしくて見れないとか。こんな気持ち、蒼ノ月様には思わなかったなんて、わかってないでしょ……っ」
自分で言ったくせに顔から火でも吹きそうになって後悔する。
椿からの反応だってないし……。
恐る恐る顔を隠した手をずらすと、目を大きくしている椿が微かに見える。



