* * *
「……ねぇ椿。これどういうこと?」
蒼ノ月様の御屋敷からの帰り道、話を聞きたいって言った椿の部屋へと連れてこられた私だったけど。
「どうって、数時間ぶりに奪還したお前の顔見て喜んでるよ?」
「……見えないでしょ、これじゃ!なに言ってんの!」
もうすっかり夜だっていうのに、椿は暗がりの部屋に私を引き入れるなり電気も付けずにベットに座らせたのだ。
頼りになるのはカーテンが開かれたままの窓の外に浮かんだ月明かりだけ。
「見えないこともないよ」
私の前に膝をつく椿。
まるで、王子様みたいに。
「でも、全然足りない」
「え?」
不意に顔を上げれば、綺麗な灰色の瞳が月明かりに照らされて、目を奪われる。
「可愛いお前をあのバカに連れ去られてやれっぱなしとか、我慢出来るわけないだろ」
「っ、が、我慢?」
そう言って椿は私の膝の横に手をついた。
黒崎さんまで追い出した部屋が静かすぎて、ギシッと軋む音が微かに聞こえる。



