「教科書すら開けるスペースないよ……」
私は華道基礎と書かれた本を膝に置く。
「噂が流れてっけど、庶民と食事がしたいなんて王様は変わってんだなぁ」
「だからって、毎回ここまでされるとさすがに怖い……」
戸澤くんは「素直に王様に招待されとけ」なんて笑ってるけどさ。
「明里にウチの家の人間を護衛につけてあげたいとこだわ」
「お嬢。お望みならただちに手配を。200人では不足ですか?」
顔面凶器がこそっと耳打ちしているけど、火神さんの家って一体……。
「さすが火神の家だ。王様も返り討ちにされちまうな」
「とっ、戸澤、あんたねぇ……明里の前でそういうこと言わないでくれる?」
「有名な話しじゃん?庶民の俺だって把握済みだし?」
なぜかこの時、火神さんの顔が妙に悲しげに見えたんだ。
チラチラとまるで私の顔色を伺うみたいにしている。



