……だけど。



「いつか、なれたらいいなって思う。だから、今出来ることを諦めないで頑張るね」



せめて私は椿の幼なじみだと、胸を張って言えるように。



「根性はありそーだもんな。まぁ、姫になれなくたっていいじゃねぇか。今もまだ幼なじみの隣にいれるんだから。俺らとは違う……」


「え?俺ら?」



最後は聞きとるのが精一杯なほど小さな声だった。


すぐに聞き返したけれど、戸澤くんは譜面に目を落とす。



「んー?んなこと言った?」



数秒の沈黙のあと戸澤くんがヘラヘラ笑って答えたから、私の聞き間違いだったのかもしれない。



「明里ー!」


「火神さん、おかえり!遅かったね?」


「あー、マナーレッスンのあとローランド先生とプロレスの話しで盛り上がってさ」



プロレス!?


だからなかなか戻ってこなかったんだ……。



「おぉ。ローランドって現役レスラーだったのか?」


「んなわけないでしょっ!?戸澤あんたねぇ、そんなこと言ったらローランド先生に羽交い締めにされるわよ?」


「やっぱ現役じゃん」



あははっ、と笑ってしまった私だったけど、戸澤くんとの会話に後ろ髪を引かれる思いだった。