「それは、もちろんお店の───」



お店のためで……。



あれ……なんで今、椿の顔が出てきたの?


今までを振り返れば、お店のことがなによりも真っ先に浮かんできたのに。



────“ 北国へ帰れ ”



椿の前から消えることを望んでいるラスボスの言葉が蘇って、胸がチクチクする。


椿と会えなくなるなんてもちろん嫌だ。

考えただけで苦しい。

その気持ちがこの一ヶ月でこんなにも大きくなっているなんて。



「店って、榎並ん家の豆腐屋のことか。経営が厳しいってのは噂でも聞いたな」


「う、うん。それでゴールドバーをもらったら少しはお店の助けになると思ったの……」


「へぇ。関心するねぇ。俺はてっきり、あの王子の隣に並べるふさわしいレディってやつを目指してんのかと思ったけど、勘違いだったか?」



戸澤くんのその言葉は私の心の奥底をギュッと掴んだ。


誰が見たって私は王子の隣を歩くにふさわしくはない。