迷惑をかけられたはずなのに、不思議とポワッと温かい気持ちになっていた。
きっとこの人には会社とは違う一面があって、その一端に私は触れられたのだと思う。
しばらくはそれを大事に持たせてもらおう。
おまけでもらったのに妙に気に入ってしまったキーホルダー程度には。


「はい、じゃあ私もこれで失礼します」

名残惜しい気持ちをバッグの持ち手に引っかけて、残った仕事のことに頭を半分ほど切り替えて立ち上がった。
しかし手首が何かによって固定されて動かない。
見下ろすと彼がしっかりと握って、不安そうに瞳を揺らしながら私を見上げている。

「あの・・・まだ何か?」

「うん。その・・・『また会いたい』とは言ってもらえないの?」

「何の話?」と言い掛けて、私が創作した出会いの物語に出てきたセリフだったと思い出した。

「えーっと?」

「俺は、『また会いたい』」