一見して営業職の人だろうなー、と思った。
清潔感のあるスーツの着こなしといい、好感度の高い笑顔といい、物怖じしない態度といい、これは訓練されたものだ。
何より、その隙のなさが胡散臭い。

「はあ」

そう思ったものの、寝起きと同じくらい無防備だった私の口からは言葉とも言えない間の抜けた音がポロリと落ちた。
それを抜け目なく了承と受け取った(いや、本当はこちらが事態を理解していないこともわかっていただろうに、そこにつけ込んだ、に等しい)彼はスルリと私の隣に座った。

「実は以前から上司に縁談を勧められてまして」

「はあ、それはそれは」

「お断りしているのですが『彼女もいないなら付き合うだけ付き合ってみたら?』と結構強引で」

「はあ、大変ですね」

「彼女の代わりをしてくれる人を頼んでいたのですが、急遽来られなくなったと連絡がありまして」

「はあ、困りましたね」

「代役を引き受けていただけませんか?」

「はあ?」

営業マンのさわやかスマイルにはやっぱり裏がある。
妙なものを押し付けてきた。
何の因果で?
何のメリットがあって?

「あ、来ました!」

条件反射とは恐ろしいもので、全く引き受けるつもりもなかったのに、スーツをバリッと着たその上司が颯爽とこちらへ向かってくると、私は慌ててデータを保存してパソコンを閉じた。

「やあ、待たせたね。━━━━━こちらは?」

「ご紹介した方が早いかと思いまして。僕の彼女です」

「あ、は、初めまして!」

深々と下げた頭の中で脳が冷や汗をかいた。
ああ、もう後戻りはできない。