「な、泣かないでおくれよ。あんたの可愛い顔が見られないじゃないかい」

「た、珠様」

あー……、なに言ってんだ俺は……。

だけど、ヒナゲシを泣き止ませるには、心にもないことを言わないといけないことだってあるんだ。

今は耐えてくれ俺よ!

内心泣き叫びつつも、俺は言葉を続ける。

「私があんたと会わなかったのは、あんたに似合うかんざしを探し回っていたんだよ」

「かんざしですか?」

「そうだよ」

「五ヶ月間ずっとですか?」

「うん、そう」

あ、忘れてた。

五ヶ月間も面会拒絶してたんだ。

「そのかんざしは、見つかったのですか?」

「ううん、まだ」

俺は微笑んでそう応える。

今ここで見つかったなんて言ったら、この先俺はヒナゲシの面会に出ないといけなくなる。

「よかったです」

「えっ?」

ヒナゲシは、涙を拭うと疑いのない笑顔を俺に向ける。

「私はてっきり、嫌われたのかと思っていました」

「そ、そんなわけないでしょ?私が愛してるのはヒナゲシだけだからね」

「珠様……」

ようし、これでもう満足だろう。

ホッとした時部屋の障子が開けられ、朝霧がお茶とお菓子を持って戻ってきたと思った俺は朝霧に声をかける。

「ちょっとぉ、遅かったじゃないかい朝霧、待ちくたびれたわよ」

「悪かったわよ、遅くなって」

「えっ……」

なんか、聞き覚えのある声がした。

朝霧にしては声のトーンがちょっと高めだし、俺には敬語ではなす。

それに、なんか言葉に怒りの気持ちがこもっているのは気のせいだろうか?

「いいところ邪魔してごめんねぇ、珠」

「うっ!」

も、もしかしてこの声って……。

それに、俺のことを珠って呼ぶのはたった一人だけ。