「それに、私は珠様の許嫁ですのに……」

そう、こいつと結の鉢合わせを避けたいのは、“婚姻”の話が関わっているからだ。

もちろん、俺はヒナゲシとのこの話はだいぶ前に断っている。

だが、自分の娘にデレデレなヒナゲシの父親が、俺の話しを勝手になかったことにしやがって今に至るわけだ。

俺だってヒナゲシを傷つけたくない。

だけど、そろそろ本当のことを説明しないとまずいことになる。

特に、蓮のやつにヒナゲシを泣かせたことがばれたら、何をされるか分かったもんじゃない。

「もしかして、珠様は私のことがお嫌いですか?」

「え……」

そんな俺の気持ちをよそに、ヒナゲシは瞳に涙を浮かべる。

や、やばい!

「そ、そんなわけないでしょ?」

「なら、なぜいつも私と会ってくださらないんですか?!」

「うっ」

どうしよう、なんて言えばいいんだ。

下手に結のことを話したら、ヒナゲシの怒りの矛先は結に向くことになるし。

だからといって、ここで嘘をついても後々ばれるわけだし。

「やっぱり、私のことがお嫌いなんですね!」

ヒナゲシは、泣き顔を見られないように着物の袖で顔を隠しながら、しくしくと泣き始めた。

もう、泣きたいのはこっちだよ。

「ごほん!」

俺は咳払いをし、ヒナゲシのそばによる。