☆ ★ ☆

「今、小娘の声がしたような?」

気のせいだと思い、俺は煙草をふかす。

「朝霧、例の件はどうなってる?」

「まだなんとも」

「そう、ならいいわ」

朝霧は隣でヒナゲシの看病をしている。

ヒナゲシはさっきから眠ったままだ。

結と鉢合わせするよりかはいいが、そろそろ起きて帰ってもらわないといけない。

蓮だってヒナゲシのことを心配しているはずだ。

「ううん……」

「あっ、珠様!ヒナゲシ様が目を!」

俺は、煙草をふかすのをやめて懐にしまいこむ。

「……ここは?」

「起きたかしら?ヒナゲシ」

「た、珠様!」

ヒナゲシの顔を覗きこむと、顔を真っ赤にして布団の中に滑り込む。

「もももも、もしかしてここは珠様のお屋敷で?」

「そうよ。あんたがいきなり飛びついてきたからびっくりしたわよ」

「も、申し訳ございません」

夕日の色のように輝く瞳を瞬かせて、ヒナゲシは布団の上に正座をする。

「ヒナゲシ様、お茶をお持ちしましょうか?」

「お願いします朝霧」

微笑むヒナゲシの顔をみた朝霧は頬を赤く染める。

うわぁ、分かりやすい反応……。

「それで珠様!わけをお聞かせください!」

「わけってなんの?」

「それは、私との約束を破って、他の約束を優先したことです」

語尾がどんどん小さくなっていくのを気にせず、俺は焦っていた。

やべぇ、これ理由をちゃんと説明しないと帰らないぞこいつ。

結のことは華と波留に任せてあるが、いつここに来るか分からない。