「珠様は、結様に出会う前はこのお家からはほとんど出ていませんでした」

「そうなの?」

私の言葉に華は頷く。

なにか、珠の身の起こったのだろうか?

珠が屋敷から一歩もでないなんて、よっぽどのことがあったに違いない。

「これは、固く口止めされていますので、詳しくはなすことはできませんが、珠様は結様のおかげだといっていました」

「私のおかげ?」

幼いころ珠と初めて会ったときは、私は泣いていた。

そんな私が、珠にいったい何をしたのかな。

「あなたのお陰で、もう一度縁結びができると、そうおっしゃっていました」

「珠が、そんなことを……」

波留が嬉しそうにそう告げてくれた。

珠本人に言われたわけではない。

だけど、その言葉は私の中で優しく響く。

私は、知らないところで珠の助けになれたことが嬉しかった。

「ですから、珠様は結様をとても大切にお慕いしております」

「で、でもそれと結婚のことは別だからね」

これじゃあ、私が珠のお嫁さんになるのほぼ確定じゃない。

珠のことは嫌いじゃない、だけど男の人として好きなのかも分からない。

てか、男の人でいいんだよね?

「少しお話が長くなってしまいましたね」

華がタオルと取り出し、優しく髪を拭き始める。

「少し急ぎましょうか」

「えっ?」

そして、波留の手にはかんざし、口紅、鏡が握られていた。

「こ、これは?」

「もちろん、珠様のもとへ行くのですから、ちょっとしたおめかしを」

「いやいいっ!!」

私の嫌がる声を無視して、華は近くにおいてあった着物を手にとる。

「さぁ結様、お覚悟をーー」

「ちょっ、まっ……」

そして、屋敷の中に私の声が響いたのは言うまでもない。