「またいつでも来ればいいじゃない」

「もう……ここには来れないよ」

「それは残念ね。どこか遠くに行くのかしら?」

珠の言葉に私はゆっくり頷いた。

「うちのママとパパね……離婚したの」

「あぁ……人間にはよくある男女の離婚ね。せっかく縁を結んでやっても意味なんてありゃしない」

珠はぐちぐちと文句を言い始める。

「それで小娘はどっちについていくのよ」

「ママだよ。パパ怖いからいや……」

「ふ〜ん」

珠はあまり興味がないのか、肩先くらいまである長い髪を指先を使ってくるくると回していた。

「パパね、珠のこと虐めたの。だから大嫌い」

「ほんと……酷い親父だったわねぇ」

珠はよしよしと私の頭を撫でてくれた。

「でも遠くに行けるまでまだ時間あるじゃない?」

「ママがお外に出ちゃだめだって」

「……思ったより厳しい親ね」

珠は苦笑する。

だから家には帰りたくない。

「このまま珠とずっといたい」

「……はあ」

珠は深く息を吐くと私を抱き上げる。

「しょうがないわね。あんたに縁を結んであげましょう」

「縁?」

珠はそう言うと私の手首に軽く唇を落とす。

それがなんだか恥ずかしくて私の頬に熱がこもった。

「これであんたとあたしはもう一度会えるわよ」

「ほ、ほんと!」

「私は縁結びの神様よ。嘘なんて吐かないわよ」

「じゃあ約束だよ!」

これが私と珠との最初の出会いだった。

幼き日の微かな記憶。

それは今となっては曖昧だ。