☆ ★ ☆

「ふわぁ……」

起きた手の目をこすりながら、大きくあくびをする。

たく、昨日あんなことがあったせいでぐっすり眠れなかった。

「おはようございます。珠様」

「おはよう朝霧(あさぎり)」

朝霧は部屋の障子を開けると頭を下げて入ってくる。

「朝食の準備が整っております」

「ありがとう」

朝霧に着付けしてもらいながら、俺は長い髪を一つにまとめる。

そして、俺は一つ気になっていたことを朝霧に問う。

「ねぇ朝霧、あんた昨日人世へ買い物にいってたわよね?」

「はい?そうですけど」

「そのとき、女の子に会わなかった?」

「女の子ですか?」

私の言葉に朝霧は首を傾げる。

結が言ってた白くてフワフワした子犬みたいな存在に、俺は心当たりがあったからだ。

「女の子には会っていませんが、人間には踏みつけられました」

「それは、あの姿でかい?」

「はい」

あー……、やっぱりか。

昨日結が見た子犬みたいな存在は、間違いなく朝霧だ。

朝霧は、元は子犬だ。

数年前に俺が神使としての仕事を与えてから、こうして俺に使えてくれているが、人世でもこの姿でいればいいのにと、たまに思うことがある。

「まったく……」

「いたっ!」

俺は軽く朝霧の頭を叩く。

「い、いきなり何をするんですか?!」

「ちょっとね、腹が立ってね」

「どういう意味ですか?!」

瞳に涙を浮かべて、叩かれたところを手でさすっている朝霧。

その姿は本当に幼い子供のようで可愛らしいのだが、ときどき腹が立ってくる。

「ところで、今日は何かあったかしら?」

「そうですね……」

朝霧は、懐から手帳を出す。

「今日は、特にこれといった物はありませんが、午後より面会が入っております」

「面会?誰と?」

「ヒナゲシ様です」

「げっ!」

その名前を聞いて顔を引きつらせる。