「ここだよ結!」

「ここ涼しいね」

初夏の風に吹かれて、木々がゆらゆらと揺れている。

それに、木の周りは花々で囲まれていて、風に乗って花の匂いがする。

私たちはすぐ近くのベンチに座ってお昼を食べ始める。

「へぇ、結は昔この辺に住んでたんだね」

「うん、でも十年も前だよ」

お父さんが作ってくれた卵焼きを口に運びながら話を続ける。

「両親が離婚したとき、私はお母さんの方についていったから」

「そっかぁ。でも、今はお父さんと一緒なんだよね?」

「うん。お母さんは海外で仕事してるから」

そう言って空を見上げる。

お母さん、元気にしてるかな?

「じゃあ、しばらくはこっちで暮らすの?」

「そうだね。私的にはお父さんとお母さんにはよりを戻してほしいんだよね」

そして、また家族三人で暮らしたい。

たぶん、今の私にとっての夢はそれだと思う。

「結は、家族思いで優しいね」

「ありがとう真花」

お昼を食べ終えたあとは、午後の授業が始まる。

授業を受けながら、私は珠のことを考えていた。

珠は今何してるのかな?

寝ているかな?

お昼食べたかな?

ちゃんと仕事してるかなとか……。

少し前までは、珠は私が作り出した幻だと勝手に解釈していた。

でも、いざ会ってみるとすぐに珠を受け入れることが出来た。

それに、珠に会えた時凄く嬉しかった。

それは、私の中で少なからず、珠は幻なんかじゃないという気持ちがあったせいかもしれない。

今日珠に会ったら、「ありがとう」と伝えようと思う。

私は、シャーペンを握ると珠の似顔絵を描き始めた。