ジリジリジリ、と、目覚ましがけたたましく鳴り響いた。
目覚ましが鳴る、というのが私にとっては非日常で、新鮮だった。

目覚ましの音は、割と早い段階で鳴り止んだ。
瞼越しに感じる朝日。遠くから聞こえる鳥のさえずり。
薄眼を開けて、ちらりと時計をみれば、まだ7時。


早起きだなあ。
3時間くらいしか寝てないじゃん。


雨宮さんは、洗面所で顔を洗い、歯を磨いているみたいだった。
次第に、コーヒーの匂い、パンの焼ける匂いが漂ってくる。

そんな爽やかな朝の気配を、寝ぼけながらも、存分に感じ取る。
この部屋には、普通に朝がやってくるんだ。
当然なことなんだけれど、それだけで少し幸せな気分になれる。

「優梨さん」

耳元で声をかけられて、そろそろ起きないといけない、と覚悟した。
彼は今から仕事にいくのだろう。

「おはよ」
「おはよう。あ、まだ寝てていいよ」

雨宮さんは、TシャツとGパンというシンプルな格好をしているけれど、とてつもなくおしゃれに見えた。スタイルが良いからだと思う。

「今から出るけど、部屋にあるものは好きに使ってくれていいし、冷蔵庫のもの適当に食べたり飲んだりしていいからね」
「え?」
「あと、鍵、ここに置いておくから、部屋を出るときにポストの中に入れておいて。あ、持っててもいいよ」

急いでいるのか、少し早口だ。
私は頭がこんがらがった。
とりあえず、訊きたいことは一つ。

「……こんな得体の知れない女に部屋の鍵渡しちゃっていいの?」

雨宮さんは、くすくすと笑いながらガラステーブルの上に鍵を置いた。

「得体の知れない女、って誰?」

そして、いってきまーすと、明るい声だけを残して、仕事に出かけた。


……信用、してくれてるってこと?


一人きりになった部屋をぐるりと見渡せば、そこは朝日に満ちた心地よい空間で
私は半分信じられない気持ちのまま、もう一度、布団に包まった。