「蘭ってさ、やっぱりあたしたちのこと馬鹿にしてるよね」


そんな声が聞こえて来てあたしは手を引っ込めてしまった。


一度は止まったはずの心臓がバクバクと音を立て始める。


「そうだよね。美鈴がカラオケに誘った時の顔見た? あの嫌そうな顔!!」


香織が大きな声を上げ、他のみんなも同意するように頷く。


「会話しててもさ、ちゃんと聞いてないよね」


「それあたしもずっと思ってた。話しかけると眉間にシワを寄せるんだよね」


「そうそう! 時々ため息なんかついちゃってさ、あたしたちと会話するのがめんどくさいのかっての!」


次々と出て来るあたしの話題に、あたしはその場から動くことができなくなってしまった。


彼女たちは大きな声で会話をしながらのんびりと歩くので、聞きたくなくても聞こえて来る。


「でもまぁ、今日の蘭は協調性を大事にしているように見えたからよかったよね」


美鈴が、あたしをフォローするようにそう言った。


「確かにそうだった! 美鈴が根気強く蘭に話しかけてたからじゃない?」


「そうかな?」


「そうだよ! あんな子、とっくの前にクラス中でハブられてても不思議じゃないって」


香織の言葉にどっと笑い声が溢れた。


その周囲に黒い光がキラキラと舞っているように見えてあたしはギョッとした。


あれはなに?


なんだかすごく嫌な感じがする。


あたしは彼女たちに背中を向け、逃げるようにその場を後にしたのだった。