奏でるものは~第3部~




「病院で……」

あの時を思い出して、言葉に詰まる。


「亡くなった後に看護師さんから、治療のために金属類を外したからって、手渡されたの。

父にもらったネックレスと一緒に指輪があった。

大切な人がいたんじゃないかって、その時知ったの」


功さんの顔を見ずに言ってから、功さんをみて続けた。


「姉は指輪をつけたまま、病院に運ばれたの。
家では見たことなかったから、本当に驚いたわ。

家族には隠してたけど、大切な指輪だったんだね」

「…………そうか」

ポツリと力ない声で返事が来た。

「あの指輪は、俺の誕生日にペアリングを俺が買って、つけててほしい、って渡したんだ。

俺と会うときは必ずつけてた。

俺はいつもつけてたけどな。

それで、優たちに冷やかされたよ」


仲良かったんだね、
お姉ちゃん、良かったね


「お姉ちゃんはその指輪で幸せだったのよ。


だから、唯歌のところに置いておきたいの。

功介さんは、新しい指輪をつけて幸せになってほしい」

「……唯歌が離れるのか?」

「貪欲に幸せを求めることが、生きていくことでしょ?
功介さんは、生きていくの。

好きでも、幸せのために別れることもあるから」