「蒸し暑くなったな。
4月に来たときはまだ少し寒かったから。
あれから、2ヶ月か。
指輪をどうしようか、ずっと迷ってた。
歌織ちゃんから聞いた唯歌の最期の言葉に、ショックを受けたよ。
唯歌がいなくなって、楽しいことも楽しくないことになってしまった時期もあったのに。
何が幸せなのか、わからないけど、俺は生きていくしかないんだな。
唯歌は、お前の前ではどんなお姉ちゃんだったんだ?」
唯歌のこと。
家では全く話さないが、思い出すことは沢山あった。
「お姉ちゃんは、しっかりした人だったよ。
マイペースで、だからこそ、自分がしたいことを、将来やりたいことも考えていたわ。
ピアノや箏、三味線、日舞も、やる気ない、高校卒業でやめる、大学行って両親の会社で働くって決めてた。
兄がいるし、本家には頼斗もいるから後を継ぐことはなかったのだけどね。
私が受験するのを両親に口添えしてくれたのもお姉ちゃんだった。
優しくてキレイで、そうそう、着物がよく似合ってた」
着物姿を思い出しながら言った。
「……急だったから。
明日も会えると思ってたから。
一瞬で全部が思い出になるなんて、あの時思いもしなかった。
もっと唯歌のこと、知りたかった。
指輪は、どうして歌織ちゃんが持ってたの?」


