奏でるものは~第3部~



「蒸し暑くなったな。
4月に来たときはまだ少し寒かったから。
あれから、2ヶ月か。

指輪をどうしようか、ずっと迷ってた。

歌織ちゃんから聞いた唯歌の最期の言葉に、ショックを受けたよ。

唯歌がいなくなって、楽しいことも楽しくないことになってしまった時期もあったのに。

何が幸せなのか、わからないけど、俺は生きていくしかないんだな。

唯歌は、お前の前ではどんなお姉ちゃんだったんだ?」


唯歌のこと。
家では全く話さないが、思い出すことは沢山あった。


「お姉ちゃんは、しっかりした人だったよ。
マイペースで、だからこそ、自分がしたいことを、将来やりたいことも考えていたわ。

ピアノや箏、三味線、日舞も、やる気ない、高校卒業でやめる、大学行って両親の会社で働くって決めてた。

兄がいるし、本家には頼斗もいるから後を継ぐことはなかったのだけどね。

私が受験するのを両親に口添えしてくれたのもお姉ちゃんだった。

優しくてキレイで、そうそう、着物がよく似合ってた」

着物姿を思い出しながら言った。

「……急だったから。

明日も会えると思ってたから。

一瞬で全部が思い出になるなんて、あの時思いもしなかった。

もっと唯歌のこと、知りたかった。



指輪は、どうして歌織ちゃんが持ってたの?」