「ここは立ち入り禁止であり、軍の機密が詰まった騎士団長の部屋でもある。なにをしていた。相応の覚悟はできているのか」


そう言いながらすらりと剣を抜くような音がした。


「女だから容赦するほど、俺は甘くない」

「ま、ま、ま、待って、くださいっ!」


やっぱり血も涙もない恐ろしさ。

このまま黙っていれば、背中をバッサリ斬られてしまう!


シルディーヌは自らを奮い立たせるようにモップを握りしめ、思い切って振り返った。

するとシルディーヌを見た団長の目が一瞬大きく開かれ、そしてすぐに元の鋭い目に戻る。


「あ、あの……」


剣を構える騎士団長はあんまりな迫力で、言いたい言葉が喉に詰まる。


黒龍騎士団団長、アルフレッド・マクベリー。

プラチナブロンドの髪に青い瞳の精悍な顔立ち。

見上げるほどの体躯に黒い団服を身に着け、地獄の番人も逃げ出すような眼力で、剣先をぴたりとシルディーヌに向けている。

ギラリと鈍く光る剣は、アルフレッドがほんの少し腕を動かしただけで、シルディーヌの柔らかな肌などいとも簡単に斬り刻んでしまいそうだ。


「わ、私は、ここに来たばかりの新米で! 西宮殿と間違えて、掃除をしてて。決して忍び込んでいません! 掃除をしに来たんです。見てください!」


声を大にして言い、モップを前に差し出した。


「あ? 西宮殿だと? ここは、城門に近い南にあるだろうが。なんで、お前は、間違えるんだ」