「やっぱり、おかしいわ……よね?」


王宮侍女シルディーヌは、翡翠色の瞳を不安げに瞬かせた。

持っていた水桶を床に置き、モップの柄に体を預けて首を傾げる。


王宮に勤め始めて一週間目。規則や基本的な仕事の仕方を教えられ、今日が本格的な初仕事だ。

任せられた仕事は掃除と洗濯で、今日は西宮殿のモップがけをするよう侍女長から命じられている。

西宮殿とは、このナダール王国の政務の中枢であり、貴族院の方々が会議をしたり執務をする部屋があるところ。

国王が住むきらびやかな本宮殿と比べれば外観はシンプルな造りだけれど、凝った寄せ木細工の床があったり大きな絵画が飾られていて、それなりに美しい内装だと聞いている。

高級な壺が宮殿内のそこかしこに飾られているし、各執務室には大事な書類などもある。

だから、掃除をするときには「触らず、落とさず、慎重に!」と侍女長から何度も注意を受けていた。

確かに宮殿の玄関ホールの真ん中には、三色の木で作られた菱形の幾何学模様の床が埋め込まれていた。

大理石の床に映えてとても美しく、さすがの豪華さだと感心しつつもせっせとモップがけをしていたのだが、ふと、あることに気づいたのだった。