RRRRRR……。

そんな時に家の電話が鳴った。
毎回、夜勤の合間を縫って電話をしてくる母からだった。

私たちはハッと我に返って、お互いから離れる。


「もしもし」

『勉強してた?』

「うん」

『智は?』

「もう部屋で寝てるよ」

何故か一緒にいることを告げることはできなかった。


『そう。じゃあ、明日も遅刻せずに学校行くのよ』

「うん、お母さんも仕事がんばってね」

『ありがとう』


母との電話を終え、さっきいた場所を振り返ると、そこにはもう智の姿はなかった。


翌日、私たちは何事もなかったように過ごそうと暗黙のルールが成立していた。

そして、とんでもないことをしてしまったんじゃないかという背徳感がひたひたとお互いについてまわり。
今に至る。

今じゃ赤の他人以上にそっけない。


あの日のことを思い出すと、耳の奥で雨の音が小さく聴こえる。
苦い想い出。

この想いから逃れることはひどく難しい。



恋の呪縛 終