「あ、そうだわっ!」
私がおそるおそる姫の前に姿を現したとほぼ同時に、
彼女はまるでいいことを思いついたかのように私を見た。
なんとなくヤな予感……。
「ねぇ美姫」
「はい?」
気味が悪いほどの笑顔。
こんなカオをする時は絶対ロクなことを考えてない。
それは彼女との付き合いの中でわかってきた。
だからあえてなにもわからない風を装ってとぼけてみる。
「帝に会ってみたいと思わない?」
「へ?」
なにを姫は考えてるんだろう。
帝って今は孝徳天皇だよね。
姫と皇子の伯父さんでもあって、
……後世では姫のダンナさまだって言われてる人。だよね?
姫をはじめ、その男やうたさん、秋保さんの視線が一斉に集中する。
「姫は姉君か妹君はいらっしゃいましたか……?」
男は目を大きく見開いて私を見ていて、発した声が震えてる。
あれ?
この人、どっかで見たことある気がするんだけど、どこだろう……。
「ああ!?」
「なんです、頓狂な声を出してっ」
うたさんが目をつり上げてる。
「ごめんなさい……」
両手で口元をおさえてもう一度男の顔を見る。
間違いない。
あの時の夢
—―大坂から奈良に向かうバスの中で見た夢—―
であの気持ち悪いオジサンと一緒に現れた人だ。
で、あのオジサン、確か帝って呼ばれてた。
ってことは?
もしかして帝ってそういうこと?