*Only Princess*





あの日も俺はどこの誰かもわからないやつを殴っていた。


殴って殴って殴って。

俺の拳が血だらけになっても、そいつが意識を飛ばしても俺はやめなかった。


やめられなかった。

誰かを殴ることで、今までの鬱憤や、日々のストレスを解消しているようなもんだったから。


そんなとき、思い出した。

菜生と交わした約束のことを。


……こういう、ことじゃないよな。


こんなの間違ってるし、菜生は誰でも構わず殴る俺なんて、嫌いになるだろう。


菜生の無邪気な笑顔

絡まる指


それが脳裏に浮かんできて、思わず殴る手が止まる。


そのとき。




「君、霧山 哲太くんだよね?」



突然誰かにかけられた。


俺を見てニッコリ笑うそいつが琉依だった。