*Only Princess*





このときのあたしは、前を見ていなかった。


青から赤になる信号も、横から走ってくる車も。


全部見えていなかった。



「菜生っ!!」


「え?」



タカトの声で我に返った。


車のブレーキの音が聞こえ、横を見るとすぐそこまで迫っていた。


すべてがスローモーションに見えた。


動かなきゃいけないことは頭ではわかってるのに、足が動いてくれない。


もうダメだ……っ。


覚悟して目を瞑ったそのとき。


ドンッと誰かがあたしを押す衝撃。


あたしは歩道に倒れ込んだ。


……今、何かが車とぶつかった鈍い音がした。


もしかして……っ。


その光景を見るのが嫌で、でも恐る恐る振り返ると、道路に横たわっているタカトの姿が。



「タカトっ!」



慌てて駆け寄る。


意識はあるようだけど、タカトは顔を歪めて足を押さえていた。


あたしのせいだ、あたしのせいでこんな……!